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2024.05.10

健康と病気の発生起源説(DOHaD仮説)とは? 

こんにちは! 健康栄養学科の川上です。

突然ですが、皆さんは19441945年の冬に起きた「オランダ飢饉」をご存知でしょうか?

いきなり世界史の講義?です。この当時のオランダはナチス・ドイツにより支配されていました。ただ、第2次大戦末期とあって、ナチスは敗戦が濃厚でした。それを打開するためだったのか、1944年の9月、ナチスはオランダの港や食糧補給路をすべて封鎖し、いわゆる兵糧攻めを実施しました。そして、不幸にもこの年の冬は記録的な寒さとなり、これらが原因となって、アムステルダムを含むオランダ西部で深刻な飢饉が発生します。これが世に言うオランダ飢饉です。この飢饉により、およそ22千人が亡くなったと言われています。

ただ、この危機的状況を生き抜いた方たちも大勢いました。そして、この飢饉発生時に妊娠していた女性も当然存在しますから、この飢饉を生き延び生まれてきた子どもたちも多くいました。

そして戦後しばらくたってから、この飢饉を経て生まれてきた子どもたちには、ある奇妙な共通点があることが分かりました。

それは、この子どもたちが成長し大人になってから、肥満や虚血性心疾患、脳卒中、高血圧、および糖尿病などの生活習慣病を高頻度で発症していたことです。戦後は栄養環境や生活環境が改善したことから、確かに肥満や生活習慣病になりやすいとも考えられますが、オランダ飢饉に晒された妊婦の子どもは、飢饉を経ずに生まれてきた子どもに比べて、成長後に明らかに生活習慣病になりやすかったのです。

この現象の原因の一つとして、胎児が低栄養な環境に晒されることにより、胎児のエネルギー代謝や内分泌調節が、少ないエネルギーでも生存できるような「倹約型」に変化し、この「倹約型」の機能が出生後も維持されることが挙げられています。実際に、胎児が低栄養状態に晒されることにより、遺伝子の発現が調節されるとの報告があります(いつの間にか生物の講義になっていた…)。

現在、上記のような考えは、Developmental Origins of Health and Disease(健康と病気の発生の起源;DOHaD)仮説と呼ばれています。

一方、現代の日本では、飢餓は生じていませんが、実は、若い女性は他の年代と比較して痩せ体型の人が多いことが分かっています。さらに、低出生体重児(出生時体重2,500g未満)の割合も増えており、胎児へ十分な栄養供給がなされていない可能性があります。DOHaD仮説に照らせば、痩せの女性から生まれた低出生体重児は、将来的な疾患発症リスクが増加している可能性があります。疾患発症リスクを低下させるためにも、妊娠期間中の栄養管理だけでなく、妊娠前の女性にも適切な栄養状態を維持してもらうことも重要と考えられます。

私は妊娠前の女性の生殖細胞、すなわち卵子に着目し、栄養不足が卵子に与える影響について研究しています。妊娠前の卵子にも女性の栄養状態が影響しているとの十分な根拠が得られれば、ますます妊娠前の栄養ケアが重要になると考えています。そして、栄養ケアと言えば管理栄養士の出番です。以上のような背景から、管理栄養士は人々の将来的な疾患リスクの低下といった社会的貢献が期待される重要な職種と言えます。このブログの読者の皆さんには、少しでも管理栄養士の仕事に興味を持ってくれたなら幸いです。

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