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2023.07.07

「ストレスとは?」

こんにちは。健康栄養学科の川上です。

今回は、現代人にとって切っても切れない関係の「ストレス」について書こうと思います。最近溜まっているんですよねぇ、ストレス。忙しい日々に加えていろいろトラブルが生じると、ともかくストレスが生じます。ただ、ストレスって何だろう? 何で生じるのだろう? と不思議に思ったことはありませんか? そう考えていたら、以前にもこのブログで紹介したベストセラー書籍「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著、新潮新書)に、ストレスとは何なのか説明があったことを思い出したので、今回も所々引用させてもらいながら書いていきます。

 

まず、ストレスのシステムを司るのは、脊椎動物に基本的に備わっているHPA系(視床下部・下垂体・副腎系)とのこと。初めに脳の一部である視床下部から、下垂体、そして副腎へと指令が伝わり、その後副腎からコルチゾルというホルモンが分泌されます。このコルチゾルがいわゆるストレスホルモンになります。

 

人間を含め動物は、緊急性の高い脅威に遭遇した時のために、このHPA系を発達させたのです。ここで言う緊急性の高い脅威というのは、目の前に猛獣が現れて、今にも襲われ食われてしまう危険性がある状況のことです。この時、HPA系により直ちにコルチゾルが分泌され、それにより血糖値は上昇し、心拍数が増加します。つまり、体中のエネルギーを動員し、心拍数を増やし大量の血液を筋肉に送り込むことで、眼前の猛獣と戦うか逃げるか、「闘争か逃走か」のいずれかに対処できるというわけです。「闘争か逃走か」に対処できなかった動物は、残念ながら進化の過程で生き延びることができず、滅んでしまったでしょう。我々すべての人間は、太古の昔からこのHPA系を発達させ、生き延びることに成功した動物の子孫と言えます。

 

現代では、眼前に猛獣が出現するような機会はほとんどありません(最近だと、山中でクマに襲われたとか、ロシアによるウクライナ侵攻という事例はありますが)。ただし、社会的心理的なストレス(ハラスメント紛いのことをされるとか、無理な仕事や課題を押し付けられるとか、バイト先の店長に八つ当たりばかりされるとか・・・)を受けた際にも、脳内では同じHPA系システムが作動します。この社会的心理的ストレスは、長期間持続することが多いのですが、HPA系システムは、猛獣と出くわした場合等、瞬間的な出来事に対応するよう獲得されたシステムであるため、「ストレスが長時間持続する」という状況に対応するよう進化していないと考えられます。

 

これが身体に様々な悪影響を及ぼします。長期間のストレスにさらされると、脳は常に「闘争か逃走か」との状況におかれ、いつしか脳は闘争と逃走以外のことをすべて放棄してしまうというのです。つまり、脳が「睡眠は後回しにしよう」、「消化は後回しにしよう」、「繁殖行為は後回しにしよう」・・・となり、その結果、お腹の調子が悪くなり、不眠が生じたり性欲低下が生じたりということにつながります。脳は、「即座に解決すべき問題以外は、後回しにする」との仕組みがあるため、このような問題が生じるのです。さらに、長期のストレスはうつの原因にもなります。

 

とここで、この本の著者は「うつ」に関して興味深いことを書いています。ここからは、ちょっと長いですが直接本文から引用します。

『祖先のストレスシステムを作動させていたのは、溢れかけたメールボックスや難航する風呂場改修工事ではない。猛獣や自分を殺そうとする人間、飢餓や感染症だ。長期間強いストレスにさらされていた人は、危険でいっぱいの世界に住んでいたわけだ。それが私たちにも残っている。

 強いストレスを感じるということはつまり、危険がそこら中にある。脳はそう解釈する。だから、頭から毛布をかぶって隠れていろ、と脳が命令するのだ。その時脳がどんな手段で私たちを動かすのかというと、もちろん「感情」だ。脳は私たちの「気分」を使って、危険いっぱいの環境から私たちを遠ざけようとする。ひどく気分を落ち込ませることで、引きこもらせるのだ。

 (中略)この患者のストレス要因は、頭から毛布をかぶって隠れたところで解決はしない。しかし脳にとってそんなロジックは無意味だ。現代社会に適応するようには進化していないのだから。(中略)脳にとってストレスとは、「ここは危険」という意味だ。人類の歴史上ほぼずっと、それがストレスの意味するところだったのだから。

 そんなの憶測にすぎないだろう、と言う人は賢い。感情や行動の進化に関して、軽々しく確実だなんて言うのは無責任だ。それでも、うつ症状が危険な世界から身を守るための脳の戦略だという説、それを裏付けるヒントがいくつかある。そのひとつは、意外なことに私たちの免疫系だ。』

 

まさかここで免疫系の話が出るとは思いませんでしたが、すごく面白いですね! 私一人だけ盛り上がっています? うつと免疫系がどう繋がるのかをまとめると、

・うつの遺伝子があるわけではないが、遺伝子が影響する部分もある

・うつのリスクを高める遺伝子には免疫を活性化させるものがある

・脳にとって、うつは感染症から身を守る手段かもしれない

・過去、人類は感染症により死ぬリスクが非常に高かったので、感染症に対する防御メカニズムが進化の過程で組み込まれるのは自然なこと

・腐った食べ物は口にしないよう、激しい嫌悪を感じる行動ベースの免疫もある

・感染症や怪我のリスクから距離を置くこと・・・人間がうつになることで達成される

 

実に興味深い! この説によれば、うつに関連する遺伝子が今も人に残っているのは理由があり、おそらく、一番強いとか賢いとか、とてもストレスに強い人だけが生き残ってきたというわけではないとも述べています。だからこそうつに悩んでいる現代人が非常に多く存在しているとの説明は、とても興味深いです。

 

まさかストレスの話がこんなに盛り上がる(個人比)とは思いませんでした。

私は新潮社の回し者ではありませんが、この本は面白いので読むことをお勧めします。今回はこれにて!

引用図書: 「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著、新潮新書)

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